チノン

CP-9 AF

CHINON / CP-9 AF

 1985年にMINOLTA α-7000が発売された後,いろいろなメーカーからレンズ交換式のオートフォーカス一眼レフカメラが発売されるようになった。このときにオートフォーカスの一眼レフカメラを発売しなかったコニカやフジなどは,一眼レフカメラの市場から静かに去っていった。日本カメラショー「カメラ総合カタログ」をたどると,vol.85(1986年)では,Nikon F-501AFMINOLTA α-9000が登場し,さらにvol.88(1987年)では,PENTAX SFXOLYMPUS OM707,Canon EOS650とEOS620,KYOCERA 230-AFが掲載されて,レンズ交換式のオートフォーカス一眼レフカメラのメーカーが出そろった。いずれもその後,ディジタル一眼レフカメラも発売するようになる。
 レンズ交換式のオートフォーカス一眼レフカメラを発売した日本のメーカーは,このほかにまだ2社ある。1つはシグマだ。シグマも,のちにディジタル一眼レフカメラを発売する。残る1社が,チノンである。vol.91(1988年)に,チノンのオートフォーカス一眼レフカメラCHINON CP-9 AFが掲載された。標準ズームレンズと望遠ズームレンズが供給されたが,交換レンズが充実することなく,オートフォーカスの後継機も発売されなかった。vol.99(1990年)までは掲載があったが,vol.100(1991年)からは掲載がなくなった。

 チノンとしては唯一のレンズ交換式オートフォーカス一眼レフカメラであり,一眼レフカメラのラインアップの最上位に位置する機種である。当時としてはとても多機能なカメラであり,オートズームプログラムAE(ふつうのプログラムAEだが,ズームレンズを望遠側にするとシャッター速度が速くなる),絞り優先プログラムAE(できるだけ絞り込もうとする),シャッタースピード速度優先プログラムAE(できるだけ速いシャッター速度を使おうとする)に加えて,AEB(露出をずらしながら連続して撮影する),絞り優先AE,マニュアル,バルブ露出という,多くの露出モードが選択できるようになっている。また,インターバルタイマー撮影機能もあると説明されている。
 CHINON CP-9 AFの最大の特徴は,交換レンズが「レンズ内モーター駆動式」であることだ。MINOLTA α-7000より前のオートフォーカス撮影もできる一眼レフカメラは,レンズ側にピントリング駆動用のモーターとその電源を内蔵するようになっていた(TAMRON 47ACOSINA AF 75-200mm F4.5など)。そのこともあって,オートフォーカス用のレンズは大きく重く高価で,レンズのラインアップが広がることもなかった。それに対してMINOLTA α-7000では,ピントリング駆動用のモーターはボディ側に内蔵した。これによって交換レンズがシンプルなものとなり,ラインアップも充実するようになったといえる。ニコン,ペンタックス,オリンパス,京セラも,同様のシステムではじまっている。
 一方,キヤノンだけは,はじめからレンズにモーターを内蔵させ電源はボディ側から供給する交換レンズ群を用意した(EOSシリーズはもちろん,それより前のCanon T80用のACレンズ群も,電源はカメラボディ側から供給された)。そのような時代に,チノンもモーターを交換レンズ側に内蔵させたのである。ピントリングの動作そのものは,たしかに速く感じる。しかし,まだオートフォーカスの精度がじゅうぶんではなかったのか,シャッターレリーズボタンを押してからピントリングが動作をはじめるまでにタイムラグが感じられ,実際の使用においてはその速さを実感しがたい。また,動作音はとても大きい。それでも,ピントリングの回転そのものはとても速く感じられる。あえて表現すれば,「爆音爆速オートフォーカス」となる。
 CHINON CP-9 AFは,キヤノンEOSと互換性があるわけではない。基本的には,Kマウントのカメラである。CHINON CP-9 AFでは,Kマウントの交換レンズが利用できる。ペンタックスAシリーズと共通の電気接点があり,ペンタックスAレンズを装着すればプログラムAE撮影も可能である。それ以外のレンズでは,絞り優先AEとマニュアルだけとなる。

 少なくとも日本国内では,よく売れたとは思えない。それくらい,中古カメラ店などで見かける機会が少ない。特異なカメラなので興味をもつ人も多いと思うが,当時の機種としてはすこしばかり多機能であるといっても,全体としては平凡なカメラである。魅力的な独特の交換レンズが用意されているわけでもない。売れなかったすれば,ぜひこのカメラでなければという特徴がなかったので,ニコンやキヤノンなどのブランドにはとても対抗できなかった,ということになるだろうか。

CHINON CP-9 AF, No.V120199
シャッター電子制御縦走り金属羽根
シャッター速度B, 8sec〜1/2000sec
露出モードプログラムAE,絞り優先AE,マニュアル
マウントKマウント互換(チノンAF専用),ペンタックスAレンズ互換接点あり
発売1988年ころ

 レンズマウントの基本的な形状は,ペンタックスと同じKマウントであるが,オートフォーカスに関する電気接点は,ペンタックスのオートフォーカスシステムとまったく異なっており,互換性がない。

 
 
 

 CHINON CP-9 AFの機構を利用したものと思われるディジタル一眼レフカメラ「D-5000」が,1989年にKodakで試作されている。Kodak DCSシリーズの開発にかかわったJim McGarvey氏のWebサイト(*1)で公開されている文書「The DCS Story」によれば,アメリカ政府関係向けに販売を試みられたようであるが,この機種だけはJim McGarvey氏が所属していたのとは異なる部門で開発されたもののようである。Jim McGarvey氏がかかわったデジタル一眼レフカメラの試作機(政府や軍関係に限定的に販売されたとされるものも含む)は,キヤノンやニコンのカメラを利用していたものばかりだったこともあり,かなり異質な存在に見える。


*1 http://resume.jemcgarvey.com/
James McGarvey