キロン

28-210mm F3.8-5.6

KIRON / 28-210mm F3.8-5.6 (for M42)

 ズームレンズは,連続的に焦点距離を変えることができるレンズである。言いかえれば,複数の焦点距離のレンズを1本にまとめたレンズ,ということになる。焦点距離を変更できる範囲が広ければ広いほど,便利なものになる。
 市場にあらわれた当時のズームレンズのうち,とくに標準レンズのかわりにも使えるズームレンズとしては,1963年にニコンから発売されたZoom-NIKKOR Auto 43-86mm F3.5が有名であった。 この当時のズームレンズは,もっとも長焦点側の焦点距離と,もっとも短焦点側の焦点距離の比が,せいぜい2倍程度のものであった。1964年にタムロンから発売されたTAISEI-ROKUNAR 55mm-90mm F4のように,ズーム比が2倍よりも小さなものも珍しくはなかった。
 その後,ズーム比の大きなレンズも発売されるようになる。ついには広角側は28o,望遠側は200oをカバーし,一般的に使われる焦点距離をほぼ1本でまにあわせることができるような高倍率ズームレンズとよばれるものもあらわれた。
 28mm-200mmクラスの高倍率ズームレンズとしては,1992年にタムロンからTAMRON AF 28-200mm F3.8-5.6 ASPHERICAL (71D)が有名である。2年後には交換マウント式のTAMRON 28-200mm F3.8-5.6 ASPHERICAL (71A)が発売され,さらに改良がすすんだ新モデルも発売されるようになる。それなりによく売れた商品のようで,中古カメラ店で見かけることは,めずらしくない。

 しかし,28mm-200mmクラスの高倍率ズームレンズをはじめて発売したのは,タムロンではなかった。
 それ以前から,COSINA 28-200mm F3.8-5.6 MC MacroやSIGMA AF 28-200mm F4-5.6などが,日本カメラショー「カメラ総合カタログ vol.88」(1987年)に掲載されている。タムロンの71Dより5年くらい前のことである。
 また,この「カメラ総合カタログ」の途中に挿入された,近江屋写真用品の広告に「キロン」というズームレンズが掲載されていた。そのレンズは,コシナやシグマ,タムロンのレンズよりもさらに広い焦点距離28mm-210mm(望遠側にわずか10mmの差であるが)をカバーするKIRON 28-210mm F4-5.6というレンズだったのである。ただし,このキロンというレンズは,日本カメラショーに出品していたわけではないようだ。ほかの号には同じレンズは掲載されておらず,近江屋写真用品の広告に,毎回違ったキロンのレンズが掲載されているのみである。

 さて,ここで紹介するキロンのレンズは,28-210mm F3.8-5.6であり,日本カメラショー「カメラ総合カタログ vol.88」に載っているものと,仕様が異なっている。
 1つ目の相違点として,開放F値の違いがある。具体的には,広告に載っているものはF4だが,このレンズはF3.8である。
 2つ目の相違点として,広告のほうにはピントリングの横にネジが見えるが,これにはネジ穴の跡すら見られない。どうやらこのネジは,ズームリングが自重で伸びることを防ぐためのストッパーらしい。
 3つ目の相違点として,ピントリングの先に段差があるかないかという点がある。広告のほうには段差がなく,このレンズには段差がある。
 おそらく,キロンの28-210mmレンズは,いちどモデルチェンジがされているのだろう。ただ,どちらのバージョンが先に発売されたものなのかは,わからない。

 キロンレンズを発売していたのは,キノ精密工業という。この会社はその後,メレスグリオ株式会社にかわり,さらに2016年9月1日からは京セラオプテックの玉川工場となっている。

KIRON 28-210mm F3.8-5.6 MACRO 1:4, No.77600075
焦点距離28-210mm 口径比3.8-5.6
レンズ構成 群 枚
マウントM42
発売1987年頃?


PENTAX K100D, KIRON 28-210mm F3.8-5.6

かりかりにシャープではないし,ふわふわで幻想的なボケでもない。スムースにボケて,その分,ピントがあったところはきちんと写っている。ごくふつうの,まっとうな写りである。高倍率ズームレンズでこれが実現されていることは,すばらしいことだ。ただし,PENTAX K100Dの撮像素子はAPS-Cサイズなので,レンズ周辺部の描写は確認できていない。

PENTAX K100D, KIRON 28-210mm F3.8-5.6

レンズを広角側にすると,あまり寄ることができない。周囲まで無難に写っていることは,画質の面が一定の完成度に達しているわけだが,特徴のないレンズになってしまっている。いまさら,高倍率ズームレンズというだけでは,特徴にならない。そして,いまとなってはすぺっくのわりに巨大で重いレンズなのである。